昨今の強迫観念

お金の話

複数の人から繰返し同じ内容の話を聞かされると、そのとおりにすることが正しく、できないと自分を責めてしまう、そうした強迫観念に襲われることがあります。

昨今の事例は「転職」「副業」といったものです。

転職をして給料アップをしなければいけない、副業をして所得を増やさなければいけない、そうした見解を識者のような人から一般のユーチューバーで「インフルエンサー」と呼ばれる人まで、こぞって何度も繰り返し情報を流しています。そんなにやらなければいけないことなのでしょうか。

なぜ「転職」「副業」がトレンドなのか

30年にもわたるデフレから一転、日本も諸外国に遅れてインフレ局面へと転換となりました。

賃上げを行う会社も多くなってきていますが、実際は大した額ではなく、インフレ率には到底及ばない額のままです。

一方、働き方も一つの会社に所属して年功序列で給料を上げていく形式から、自分の仕事能力を売りにして会社を渡り歩き、転職ごとに年収を上げていくというものに移行しつつあります。

また、サラリーマンのような給与所得だけでなく、複数の収入を得て、一つの収入が途絶えたときのリスクヘッジの意味合いから副業を推奨する動きもあります。

給与所得と事業所得の両方があれば、トータルの収入も増えていくので、副業のメリットは大きいことは容易に想像がつきます。

将来が不安とファイヤーブーム

所得を増やしたいということの根底には将来、特に老後が不安だと思っている人が多いことが大きな原因です。

各種調査でも、老後の生活面が心配と答えた人は82〜97%に上り、年金が当てにできない状況を反映して、どうにか蓄えを増やさないとと思っている、そうした背景もあるように思えます。

また、少し前に世界的に流行したファイヤーブームにより、とにかく早く金銭的な不自由がなくなり、仕事をしてもしなくてもいい、好きな仕事だけやる、といった暮らしに憧れる若者たちには、転職や副業で所得を伸ばすというのは必要不可欠と捉えられたのだと思います。

(注:FIREは「Financal Independence,Retire Earlyの略で、経済的自立をして早期退職をしようとする運動。退職後は資産運用等によって生計を立てることが多い)

こうした各世代、多方面の考え方に推奨されるものとして転職や副業が取り上げられ、メディアでも繰り返し取り上げられるので、転職も副業もうまく行かないということにストレスを感じ、自分を無能だと思ってしまうケースがよく見られます。

資産を増やすためには3つの方法しかない

経済的にどうにかしなければならないと多くの人が焦りにも似た状況になっているのは、将来に対する不信と自助努力の限界を感じることにあるのかなと思うのですが、そもそも資産を増やすには3つの方法しかないと言われます。

収入を増やす、支出を減らす、運用する、この3ステップです。

このうち、「支出を減らす」というのは、固定費を見直したり、不要なものを衝動買いしたりしないとか、値段ではなく価値で支出を判断する、など誰でも取り組めるもので、要は単にやるかやらないかの問題です。

また、「運用する」は大きく分けると株などの金融資産で運用するのと不動産投資になりますが、不動産投資は事業所得とも言えるので、たいていの場合は金融資産として運用することになります。

そして、株などの投資については、現時点での最適解は示されているので、あまり選択の余地はありません。

ただ、「収入を増やす」というのは、仕事を変えるか増やすしかなく、「支出を減らす「運用する」のように誰でもできて再現性があるとは言えない、大変難しい部分になります。

どうにか老後を安心して過ごしたい、あるいは早く自由を手に入れたい、となると、あといじれるところは「収入を増やす」という部分だけになってしまうので、インフルエンサーもこの部分を言及するし、誰でもできるわけではないのでみんなが焦る、という構図になってしまっています。

実際に収入を増やすとなると、増えるような転職ができる状態に自分があるのか、副業でできれば事業所得を得るために動く時間や体力があるのか、人によって事情が異なるので、現実的には誰でもできるというわけにはいかないでしょう。

収入を増やすあるいは事業所得を作る、といったことを発信している人は、自分ができたから他の人もできるはずだ、といった論調だったり、できない人はやらない言い訳をしているだけだ、といった根性論の人もいます。

確かに人間の脳は発展の経緯から、現状維持バイアスが生存本能として備わっているので、そうした部分を意図的に変えていかないと新たなことはしづらい仕組みになっていることはわかります。(長期にわたり狩猟をして生きてきたので、いつもと違う土地に行って慣れないことをするのは生命維持的に危険であると、脳が認識してきた名残)

しかし、みんながみんな「収入を増やす」ことを追い求める必要があるのか、どた山は疑問を持っています。

どのように生きていきたいのか

もしあなたが「ゆったりのんびり生きていくことが幸せで望んでいることだ」という人なのであれば、インフルエンサーに踊らされず、望んでいることを追い求めるのがいいと思います。

なにも転職や副業ができないからといって、気に病む必要もありません。

自分は何を望んでいるのか、どのようになりたいのか、何をしたいのか、そうしたことをまず見つめないと、合っていないことをできないといって焦ってしまう、昨今の強迫観念に取り憑かれてしまいます。

もし自分を見つめて、老後に備えてすべてを捧げてもできる限りの蓄財をしたい、是可否でもファイヤーを達成して仕事の束縛から解放されたい、と思ったら、ぜひ転職や副業に精を出すことをおすすめします。新しく事業を起こすこともいいでしょう。

それは自分の生き方ではないな、しかも現状維持バイアスにとらわれているのでもないようだとなれば、きっと「収入を増やす」ということと違うことがあなたはしたいのかもしれません。

コメント

  1. ダフニス より:

    収入が増えるに越したことはないけれども、厳しい環境に居続けるあまり、精神を病んでしまったらもとも子もないです。かといって逆に、十分に支出削減しようにも、現実的には難しいとも思います。

    理想を思い描くことは大切ですが、それが実現できないからといって、自分を責め立てても何も生まれないとも思います。大切なのは、理想に向かって、自分にとって適温で頑張って、適温で成果を上げて、それを喜ぶプロセスなんじゃないかと思います。

    • dotayama8 より:

      心身ともに健康を保つことが優先ですね。節約は汎用性のある固定費の削減をしたら、あとは価値のないことには使わない、ということでしょうか。理想の状態というのは独力でどうにかなるというケースは少ないのかもしれませんね。自分でできることをしたら、あとは多くを望まずに受け入れるという寛大さも必要なのだと思います。

  2. こや より:

    仕事をしなければならない、という考え自体が、強迫観念だと思います。

    • dotayama8 より:

      好きや得意を仕事にしよう、とか準富裕層(金融資産のみで5000万円以上)になって自由な人生を手にしよう、とかネットで言い過ぎです。好きや得意を仕事にできるなんて言うのは、激烈なマイノリティです。

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